お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》
近くのテーブルには、バイキング形式で取れる数々の料理が並んでいた。
城のコックが腕によりをかけて作った高級ディナーが食べ放題なんて、夢のようだ。きっとここにダンレッドがいたのなら、目を輝かせて皿いっぱいに盛り付けていただろう。
「お嬢様。好きなものをお取りしますので、おっしゃってくださいね。」
「えぇ…。」
彼女はこくり、と頷くが、何やらさっきから空返事だ。
皿を持ったメルの隣で、真剣にケーキを見つめるルシア。
彼女の様子が気にかかりながらも、黙って見守っていたメル。すると、その数秒後。やや躊躇しながら、ルシアはぽつり、と呟いた。
「ねぇ、メル。」
「はい?」
「その…、今日は二つ選んじゃダメかしら…?」
思いもよらぬ問いに、ぱちり、とまばたきをするメル。
やがて、彼女の心中を察したメルは、くすくすと笑いながら答える。
「デザートは種類がありますし、ちょっとだけ多くもらってもバレないと思いますよ。…あと、これは独り言ですが、ダンレッドはよくショートケーキを好んで食べていますね。」
はっ!と隣を見上げたルシア。
専属執事の余裕の微笑みに、彼女はふふっと笑い返した。
「やっぱり、メルには全部お見通しね。」