お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》
まじまじとケーキを見つめるダンレッドは、警備の過酷さもすっかり忘れたようだ。寒さのせいでほんのり赤くなった鼻に、メルも気遣うような視線を向けている。
「よかったね、ダン。」
「うん!さいこ〜!!」
わんこのようにはしゃぐダンレッドに笑うメル。
するとその時。メルの視界に、ルシアが手に持つもう一つの皿が映った。そこに乗っていたのは、メロンで飾られたロールケーキである。
彼女の嗜好を知り尽くしていると思っていただけに、メルはきょとん、とする。
「お嬢様。今日はチョコレートの気分ではなかったのですか?」
「えっ…?!」
「いつもは、真っ先にチョコレートケーキを選ぶでしょう?」
わずかに染まったルシアの頬。
慌てたように目を泳がせる彼女は、少し照れたように、ごにょごにょ、と呟く。
「ええっと…。これは、メルに渡そうと思って持ってきたの。」
「え…?」
「パーティがあっても、いつもは私だけで執事のメルは食べられないでしょう…?だから、その…、今日はダンレッドと一緒に食べて欲しくて。」
予想外のことに、メルは目を見開いた。
まさか、もう一つは自分のだったなんて。
不意打ちの出来事に、つい動きが固まってしまう。
「ありがとうございます。そんな気遣いをしていただかなくてもいいのに。」
「気遣いというより、普段のお礼よ。私が作ったわけじゃないけど…。メルは、メロンが好きだって聞いたから…」