お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》
なぜそれを、と思った瞬間。情報源がにこにこと八重歯を覗かせながらこちらを見上げる。
「メル、いつも社交場でお嬢さんに出されるメニューを毒味してるけど、メロンが出ると普段よりちょっと多めに食べてるもんね!」
(お前か…!)
ぺらぺらと恥ずかしいことを暴露するんじゃないよ。
そのツッコミは、動揺からか口に出せなかった。
まさか、バレていたなんて思わなかった。長年相棒として並んでいると、さりげない行動まで見られていたらしい。
意外と勘の鋭い用心棒に複雑な視線を送るメル。ちらり、と、場内のテーブルに目をやると、デザートはほぼ無くなっているようだ。若干の羞恥心を感じる中、メルは小さくコホンと咳払いをして続ける。
「お気持ちは嬉しいのですが、お嬢様の分を横取りするわけにはいきません。」
と、その時。それを聞いたダンレッドが閃いたようににこりと笑った。
「じゃあ、三人で仲良く分けて食べようっ!」
彼の提案に、ワクワクしたように頷くルシア。上流階級の令嬢が、まともな肩書も持たない使用人達と食事を分け合うなんて前代未聞だ。
しかし、嬉しそうにケーキを切り分けるルシアとダンレッドの姿を見て、メルは眉を下げて苦笑していた。
「はいっ!イチゴのとこはお嬢さんにあげる!」
「ふふっ!ありがとう…!」