お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》
微笑ましいやりとり。やがてフォークを持ってきたメルを迎え、しゃがみ込んでケーキを頬張る三人は、粉雪の舞うテラスで束の間の特別な時間を過ごした。
ルシアの肩に燕尾服のジャケットをかけるメル。頬を染めて、申し訳なさそうに、だがそれ以上に嬉しそうに笑ったルシア。
そんな二人のやりとりを穏やかに見つめたダンレッドは、「俺のマントもあげちゃう!」とルシアの暖をとった。
笑いの絶えない三人だけのひとときは、少しも寒さを感じない。
やがて、場内から聞こえる演奏が変わった。
そろそろ舞踏会が始まるらしい。
「お嬢様。」
小さく声をかけると、すべてを察していたらしいルシアが、すくっ!と立ち上がる。その瞳は、紛れもない“クロノア家の令嬢”のものだった。
ルシアは、完璧だった。
ワルツのステップもさることながら、その表現力と表情は、ずば抜けてゲストの目を惹きつけた。
そしてそれは、ペアとして手を取るメルも同様である。
彼女の呼吸、歩幅に寸分の狂いもなく合わせ、ドレスの広がりが綺麗に見えるよう、ひたすら影に徹した。
“ほらね。やっぱり、あの二人が一番でしょ?”