お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。《追憶編》
粉雪の舞うテラスで、ダンレッドは自慢げに微笑んだ。
城の使用人も、上流階級のゲストも、同じ場で踊っているペア達も、誰もがクロノア家の令嬢と執事を見ている。
それが、ダンレッドにとってこの上ない幸せで誇りであった。
あの二人は他とはまるで違う。
努力した分、実力は誰にも負けない。あんなにお互いを信頼していて、尊敬しあっているペアなんていない。
(だって、俺の主と相棒だもんね。)
ワルツの音色が終わると同時に、ワッ!と会場が沸いた。
手を取り合って笑っている二人。
ダンレッドは、穏やかな表情で彼らを見つめていた。
その時。
ゲスト達の中で、一際目立つ存在が視界に映った。
ロージアン国の第一王子、リューデ。
彼は、じっとルシアとメルを見つめているが、その視線は他のゲストが向ける羨望と称賛のものとは少し違った。
こそこそと城の使用人を呼びつけ、通訳を交えながらルシアを目で指し何かを話している。
(なんだ…?)
幸せな余韻に浸るルシアとメルは、そのやりとりに気付いてもいない。
ダンレッドは笑顔で二人を出迎えながらも、隣国のゲスト達の不穏な動きに、一人、心の靄を抱いたのだった。