彼の考えていたことを知ることはできない
僕がやっと会場を出ると、同級生や会社の同僚であろう人たちがそれぞれグループになって話し込んでいた。
涼太の死を悼む者もいるだろうが、近くにいる人々は今日は暑いねなんてどうでもいい話をしている者もいる。

誰が死ぬときもきっと同じだ。
深く悲しむ人もいれば、付き合いで仕方なく来ている人や悲しむ材料がない人もいる。
全員と同じ深さで付き合っていくことなどできないのだから。


「裕行君、ですか」

君付けで呼ぶにしてはよそよそしい知らない声が聞こえてきて、僕は声がする方に顔を向けた。

目線を下げると、小柄な女性が一人立っていた。

「突然ごめんなさい」

こちらの様子をうかがっているようでどこか落ち着いた口調から、少し年上のように思えた。

知り合いにこんな人いたか?
記憶を辿るが、そもそも涼太と共通の知り合いで女性など同級生以外思い付かない。

それ以外は……涼太はモテていたと思う。
でも彼女の存在は感じても、涼太は明言しなかったから。

「あの……」

「あ、はい!すみません、ぼーっとしちゃって」

僕の声が上ずって大きくなったのを、彼女は弱々しくくすりと笑った。

「いや、こちらこそ急にごめんなさい」

「いえ……すみません、失礼ですけどどちら様ですか……」

彼女は困った顔をして言い淀んだ。

「もしかして涼太の彼女ですか?」

「え……」

彼女は少し戸惑った様子だったが、ゆっくりと頷いた。

「実は、初対面で不躾なお願いなんですけど、内密で裕行君にお願いしたいことがあって」

「お願い?」

彼女が左腕の袖を少し捲ると、この場に似つかわしくないシルバーのバングルがついていた。

「これと同じ物、とってきてくれませんか」
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