彼の考えていたことを知ることはできない
涼太と知り合った日がいつかなんて覚えていない。
中学高校と同じ学校にいて、たまたま同じクラスで気が合って、ずっと一緒にいただけだ。
それがずっとずっと続いて、親友と呼ぶのがむしろくすぐったいくらい仲良くなった。
社会人になってからもずっと、そう、親友、だった。

「裕行って結婚したい?」

「え?」

僕は涼太の顔を思わず凝視すると、彼はふいに目をそらしてイヤホンを投げ出してテーブルに突っ伏した。

「俺、多分恋愛向いてない。一生友達と住む方がいいのかも。結婚しない方がいいわ」

その言葉でむしろ最近恋愛していたことを俄に感じ取る。

「なんでそう思うんだよ」

「なんとなく」

多分なんとなくではない何かがある気がしたが、聞けなかった。
おそらく彼の親が離婚していることも関係しているのかも知れない。
それでもこちらから踏み込んだ話はしなかった。
僕は、彼の〈親友〉でしかなかった。

「もし裕行も結婚しないなら、一緒に住んだら楽しくね?」

「……涼太は、絶対結婚しないつもり?」

そう聞いた僕の言葉に涼太は曖昧に少し苦く笑った。
返事を間違えたと思った。
今思う『絶対』が一生続く『絶対』とは限らないことを彼は知っていた。

「これ、いい曲じゃん」

そんな風にもう話題を変えて笑っている涼太を見て、頷いとけばよかったなぁとふと思った。
でも僕たちは〈親友〉だからいつでも訂正できると思っていた。
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