彼の考えていたことを知ることはできない
「明日23時に○○駅前集合でお願いします。準備はこちらでします」と連絡がきた。

名前はフルネームで表示されていて、アイコンに自分の写真を設定しているところからしても捨てアカではなさそうだった。

そのままバックレてしまえばよかったのだが、どうしてもあの時の真剣な視線が頭から離れられなくて、なんで僕の存在を知っているか知りたくなってしまって、僕は「分かりました」と返事をしていた。

決行当日、待ち合わせ場所に着くと彼女は驚いた顔をしていた。

「ほんとに来てくれたんだ」

「一応。約束しちゃったので」

そう言うと、彼女は微かに笑って目的地へ歩き出した。
僕はその斜め後ろをついていく。

「やっぱり裕行君は優しいね」

やっぱり?
怪訝な顔を向けると、彼女の笑みが苦笑に変わる。

「馴れ馴れしくてごめんなさい。彼が、涼太君が、裕行君のことよく話してたから」

「涼太が、僕のことを?」

彼女は微笑んで、スマホの画面を見せてきた。
そこにはバカみたいに大口を開けて笑っている僕と涼太が映っていた。

「うん、中学からの親友と一番遊んでるってね。よく写真も見せてくれてたの。だから、裕行君とはずっと前から知り合いみたいな気分になっちゃって」

僕の前じゃ決して言わなかったが、彼も僕を親友と思ってくれていた。
そのことに胸がぎゅっと締め付けられる。

どんなことを話していたのか聞こうとしたが、彼女が自身のバングルをじっと眺めているのに気が付いて何も聞けなくなった。

「涼太のこと、大好きだったんですね」

彼女は僕を見上げると、眉間にシワを寄せて泣くのを堪えていた。
バングルをお守りのように大事に握りしめて。

上手く言葉にはできないけど、涼太もきっとこの人のこういうところを好きだったのだろうなと思った。
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