彼の考えていたことを知ることはできない
気付くと、辺りは明るくなり始めていた。

泣いていたのか寝ていたのか分からないくらい憔悴しきった顔をしている彼女を見て、僕も同じ顔をしているだろうなと思った。
彼女の手を引いてベンチに腰かけた。
ずっと地面に座っていたせいか、身体中が痛い。

「涼太のお母さんが、言ってたんですけど」

彼女が僕の方をゆっくりと向いた。

「病院でうわ言のように、ごめんって言ってたって」

彼女は空を見上げて微かに笑った。

「ごめん、かぁ。どういう意味かな」

彼女は、僕の答えを待たずに立ち上がった。
きっと答えを知ることはない。
僕も、彼女も。

「私は裕行君が羨ましかったよ。いつも涼太君のそばにいて、終わりのない関係でいられて。私は元カノでしかないけど、裕行君は今だってきっと涼太君の一番の親友に変わりないから」

僕が言葉に詰まっていると、彼女は振り向いて僕を見て笑った。

「でも、きっとお互い無い物ねだりだね」

僕も笑った。
彼女が伸びをすると二つのバングルがキラキラと光り、彼女はそっと目を閉じた。

しばらくすると視線を僕に投げ、口を開いた。

「裕行君は何かもらってきたの?」

「僕は何も。貸したCDを取ってきただけですよ」

僕は鞄からCDを取り出す。
そこに『めっちゃよかった!』と雑に書かれた付箋が貼ってあった。

何の意味もない言葉の羅列のかっこいい洋楽だった。
もっと意味のある曲……夢とか友情とか永遠の愛とか何か糧になる曲だったら、と思う。
でも、それは涼太にとって『めっちゃよかった』とはならなかったかも知れない。
何の意味もない言葉の羅列が意味を持ち始めるのを感じた。


僕は彼の考えていたことを知ることはできない。
でも、僕が彼のことを考えることはできる。


僕は、彼を好きだった。
どういう好きかは、きっと分からないままだけど。

僕も彼女と同じようにCDを取り出して、わざとらしく伸びをした。
CDに朝日が反射して眩しくて、目を閉じた。

あまりにも眩しくて、涙が枯れたはずの目に涙が滲んだ。


終わり
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