かみさまだって、泣く
プロローグ
彼女が泣いている姿を、ようやく見ることができた。
お互いが高校生だったころに出会った彼女は、何も言わない子だった。
とはいっても、遊びに行けば見たい映画、食べたいものをはっきり主張するし、部内でも、自分の意見を言いつつも周りのフォローも忘れない、頼れる副キャプテンだった。
何も言わない、というのは彼女自身のことについてだった。わたしは彼女の生い立ちや悩んでいること、誰かに言いたいのに誰にも言えないことを何にも知らなかった。
否、言わせてあげることができなかった。
その分、笑顔でいてほしくて、必死だった。でもたまに見せる、寂しそうな表情は、わたしにはどう頑張っても、たぶんどうすることもできなかった。
だから、嬉しいのだ。彼女の泣き顔をみることが、できたことが。
三人で食事を交わしたことがあった。
彼女がお手洗いに行っている隙に、二人で話したことがあった。
その時わたしは彼に「泣かせたら許さない」なんて、どこかの誰かの親顔負けのセリフを言うことになったのだが、まさか感謝することになるとは思わなかった。
ありがとう。彼女の本当の心をみせてくれて。
ありがとう。ずっと、彼女のそばにいてくれて。
わたしには、絶対に与えられなかった永遠の形を、彼はいとも簡単に、彼女に差し出してくれた。
なんて、わたしにはそう見えるけれど、きっと簡単ではなかっただろう。頑固で自信のない彼女の相手は、相当長い戦いになっただろう。
純白のドレスに身を包んだ彼女は、メイクがぐちゃぐちゃになるくらい泣いた。もともと美しい顔立ちをしている彼女の瞳から流れる涙は、とても美しかったと思う。
そんな余韻に浸りながら、わたしは缶チューハイをもう一本開けた。窓から入り込んでくる夜風は冷たかったが、どこか、新しい季節の訪れを感じさせるものだった。
二人よ、どうか、永遠であれ。
もうすぐ春がやってくる。厳しい寒さを乗り越えたその先に、どんな世界が待っているのか。これからが楽しみで仕方がなかった。
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