かみさまだって、泣く
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雨が止んだ。長い雨だった。冬に降る雨は夏に降るそれよりもひどく冷たく感じて、嫌いだ。
街を歩く人々が一斉に、色とりどりの傘を閉じていく。
わたしも、その映像を演出している中の一人なわけで、だけれど、高校入学と同時に母に買ってもらった真っ赤なこの傘は、スカートの裾を濡らしている綺麗なお姉さんのものとは違って、すっぽりわたしを包み込み、水滴一つでさえはじいてくれていた。
それもそのはず。この真っ赤な傘は元々二人で入る用に作られたもので、それを華奢な女子高生が一人で使っていたら濡れるはずがない。
自分が濡れるのは気にならないが、今日、せっかくもらった餞別が濡れてしまうのは、もったいないと思っていたから、この傘を持って行ったよかった、と思う。
わたしは今日、この街を出ていく。
「那月は全然携帯触らないから、音信不通になりそう」
ついさっきまで行われていたソフトボール部による、「新田那月送別会」もお開きになるころ、わたしにそう告げたのは遠藤晴夏だった。
ハルとわたしはクラスは端と端で分かれていて、頭脳だって文系と理系、性格も真逆だというのに、同じソフトボール部に所属しているという共通点だけで、仲良くなった。
わたしとハルは、友人だ。そんな友人に別れ際こんなことを言われて動揺しない人間がいるだろうか。わたしは必死にフォローの言葉を探すも、そもそもハルの指摘が事実なわけなのだから、見つかるはずがなかった。
「わかった。なるべく見るようにする」
「メッセージは返さないでいいから電話には出て」
「努力します」
ちなみにハルから貰った餞別は、携帯カバーだった。これでいつでもどこでも一緒だね、と言われたのでさすがに愛が重いと思ったが、言えなかった。うれしかった自分も、相当愛が重いだろうから。
「わたしは心配だよ。那月のことが。那月は何にも言わないから、わたしみたいに遠慮もしないで踏み込んでくる奴がいないと、だめになっちゃう」
「ハルはわたしの親か何かなのかな?」
「もはや愛だからね、那月への想いは愛」
よくもまあ、そんな恥ずかしいことが言えるな。けどやっぱり、その言葉を聞いて照れてる自分にも引く。