かみさまだって、泣く


だから、父を完全拒否したわたしの元に続いて現れたのが、ケンさんだった。

ケンさんは父がかわいく思えるほど強引だった。一人で生きていくと決め込んでいたわたしを叱責し、押しに弱い(自覚済み)わたしへの一緒に住もうアプローチは激しく、ついに折れたころには転校の時期など、すでに高校に知らせていた。初めから、わたしがどんな返事をしようが一緒に住むことは決まっていたらしい。

そんなこんなで、冬休みも終わりを告げるころ。高校進学と同時に、交通の関係で引っ越してきたこの街とも、約二年でおさらばだ。

不満なんてものはない。勉強は好きだけれど縛られることが嫌いなわたしに進学校は向いていないし。昔近所に住んでいた子供、ってだけなのにこんなに親身になってくれている人の好意は、簡単に断れないし、というか断る暇もなかった。


「ま、那月が困ってそうな気配がしたら、いつでも連絡してあげるから、安心して」


ハルの言葉は、いつだって独特だ。


「そこは普通、困ったらいつでも連絡してきなよ、じゃないの?」
「だーから、遠慮ばっかの那月のために、わたしからしてあげるって言ってんの」


そして、いつだってまっすぐで、いつだってわたしのことを理解している。

ハルと話していると心がほわほわした。既視感。ハルのそばにいると、いつだって思い出す人が、ひとりいた。どうしてハルと、こんなわたしが仲良くなれたのかっていうと、たぶんハルが、あの人とよく似ているからだと思う。


「……ハル、ありがとうね」
「うん。わたし那月のこと大好きだからね。寂しいけど、那月の一番いい方向に向かっていってほしいって思うよ」
「なにそれ、男前すぎる」
「ま、地球の裏側まで離れてるわけじゃないからね。すぐに会いに行くから」


イケメン幼なじみにも、ちゃんとわたしのこと紹介しておいてよ。

そう、屈託なく笑ったハルの笑顔に、わたしは数泊おいて、うん、と短く応えることしかできなかった。


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