かみさまだって、泣く
「迎えに来た」
「え?」
「なっちゃん、家までの道忘れてるだろうから、迎えに来てあげた」
相変わらず上から目線な七瀬の言葉だけど、その物言いも、笑った時の無邪気な顔も、何も変わっていなかった。
この男、七瀬永遠と出会ったのはわたし達が小学三年生のころだった。
親の離婚で引っ越してきた七瀬と、その一年前、お父さんがいなくなったわたしは妙な仲間意識を持ったのか、すぐに仲良くなった……というわけにもいかず。
せっかくこっちが仲良くしてあげようと差し出した手を振り払うどころか、あろうことか、奴は当時大ブームだった、年数をかけて作り上げたお手製ツヤツヤ泥団子を踏み潰したのだった。ご丁寧に、わたしの目の前で。
わたしの何が気に食わなかったのか? いまだにその答えはわかっていないけど、七瀬の根性が腐っているということはすぐにわかった。
母にもすぐにその出来事を話したが、根回しは既に終わっていた。
昔からの友人同士であるわたしたちの親はお互いの子供のことをよく理解していた。加えてわたしの母は子供同士のかわいいいざこざは笑って済ますタイプであるのでもちろん、この話も笑って済まされた。
当時のわたしからするとかなりの緊急事態であったが、母は「那月が永遠くんと仲良くしてあげるのよ」なんて言ってわたしの頭を撫でた。そんなことをされると、母の言うことを聞くしかなくなるので、仕方なく、七瀬の面倒を見続け、気づけばお互い高校二年生になっていた。
「迎えに来たって、今から引っ越しの立会いなんだけど」
「お、ちょうどいいじゃん。俺なっちゃん家見てみたかったんだよね」
のんきなことを言って利き手の左手を差し出す七瀬。
「なに、この手は」
「鍵。あけるから出して」
はよ、と催促されると体は勝手に動き七瀬の左手に今日でおさらばする家の鍵を渡していた。