かみさまだって、泣く
ガチャガチャと派手に音を立てて鍵を開けた七瀬はそのまま何の遠慮もなく家に上がり込む。一応「おじゃましまーす」と間の抜けた、ゆるい挨拶は聞こえてきた。
まあ、今日でわたし達の家じゃなくなるから、別にそんなことしなくたって気にしないけれど。
「……何もないな」
中を見た七瀬の第一声が、それだった。
「当たり前じゃん。もう片付けしたもん。立ち会い、ちょっと時間かかるかもしれないから七瀬先帰ってていいよ」
暇だろうし。待たせるのも申し訳ないし。
心の中ではいくらでも言い訳ができるが、結局のところわたしが、七瀬と二人きりの空間が耐えられないから、一刻も早くどこかへ行ってほしいだけだ。
そんなわたしの気持ちを見透かしたのか、七瀬は急激に不機嫌な顔になっていく。
「なっちゃんさあ、俺がどんな思いでここまで来たと思ってんの?」
知るか。ていうかそんな顔でなっちゃん、って呼ぶな。
「ま、なっちゃんには一生わかんないだろうけど。いいや、そこまでなっちゃんが嫌がるなら俺は絶対にここを動かない」
そう言うと七瀬はカーペットも何も敷いていない床に大の字で寝転がる。
そうだよな、七瀬はこういう奴だ。わたしはため息をついて了承するしかなくなった。
「わかったよ……。てか、なんでわたしの家わかったの?」
「去年届いた年賀状の住所見て来た」
「え、まって、その年賀状わたし返事来てないんだけど!」
「いやあ、なっちゃんならわかってくれるかなって」
何をだ。何を分かってくれると? こういう時だけいい笑顔で言う七瀬はずるいと思う。
そうやっていい顔をしておけば、たいていの女の子は黙って許してくれるということをわかってやっている。あざといやつだ。わたしだって、許してやる気は毛頭ないが、付き合いの長さのせいで弟のような存在である七瀬に対しては、どうしても強く当たれないのだ。
だからって、中学を卒業して、連絡を取らなくなった幼馴染から年賀状の返事も来なかったことに対するわたしのマリアナ海溝よりも深い傷が癒えることはない。