ふ、のつくしあわせ
「じゃあ」
「うん」
……ああ、今日も「じゃあ」だった。じわりと諦念が押し寄せる。
かつて「いってきます」と「いってらっしゃい。気をつけてね」だった朝の出発の挨拶は、いまはもう短く枯れ果てて、ろくにこちらに目線も向かない。
夫の朝は早い。勤務先が遠いから。
朝。
布団の隙間から入り込む冷気と少し明るんだカーテンの向こう、それからごそごそ動く人の気配にわたしが目を覚ますころ。
夫は冷えたスーツに身を包み、ざりりとひげを剃って髪を固める傍ら、申し訳程度のサラダといちじくのはちみつを落としたパンを押し込むように口に入れ、それらをまとめてぬるいインスタントコーヒーで胃まで流し込んで、ひったくるように鞄を指先ですくって玄関を飛び出していく。
あまりにも朝早いので、余裕をもって起きる、なんてことは難しいらしい。夜も遅いから仕方ないのかもしれない。
でも、せめてわたしにもっとちゃんと顔を見せてくれてもいいのに。
もっとちゃんとというか、もっとゆっくりというか。
毎朝慌ただしい。週末以外は毎日、わたしはゆっくり顔を見ることもできずに、大抵の場合、いつのまにかひとりになったベッドで寒々しく体を起こす。
合わせて朝早く起きようとしてみたことはあるのだけれど、わたしには無理な時間だった。
それはわたしの問題で、夫が気を使ってくれていることもわかっている。わかっては、いるのだけれど。
「うん」
……ああ、今日も「じゃあ」だった。じわりと諦念が押し寄せる。
かつて「いってきます」と「いってらっしゃい。気をつけてね」だった朝の出発の挨拶は、いまはもう短く枯れ果てて、ろくにこちらに目線も向かない。
夫の朝は早い。勤務先が遠いから。
朝。
布団の隙間から入り込む冷気と少し明るんだカーテンの向こう、それからごそごそ動く人の気配にわたしが目を覚ますころ。
夫は冷えたスーツに身を包み、ざりりとひげを剃って髪を固める傍ら、申し訳程度のサラダといちじくのはちみつを落としたパンを押し込むように口に入れ、それらをまとめてぬるいインスタントコーヒーで胃まで流し込んで、ひったくるように鞄を指先ですくって玄関を飛び出していく。
あまりにも朝早いので、余裕をもって起きる、なんてことは難しいらしい。夜も遅いから仕方ないのかもしれない。
でも、せめてわたしにもっとちゃんと顔を見せてくれてもいいのに。
もっとちゃんとというか、もっとゆっくりというか。
毎朝慌ただしい。週末以外は毎日、わたしはゆっくり顔を見ることもできずに、大抵の場合、いつのまにかひとりになったベッドで寒々しく体を起こす。
合わせて朝早く起きようとしてみたことはあるのだけれど、わたしには無理な時間だった。
それはわたしの問題で、夫が気を使ってくれていることもわかっている。わかっては、いるのだけれど。