ふ、のつくしあわせ



「おかえり」

「…………ただいま。起きてたんだ?」

「たまにはご飯一緒に食べようかと思って」


へえ、と気のない返事を寄越した彼が。


「……明日、どっか出かける?」


なんて言うので。

もしかして、彼にとってわたしってやつは、いまだに出かけるのがデートとイコールだったときのままなのかもしれない、とちょっぴり不安になりながら、「別に家でいいよ。疲れてるでしょ、のんびりしよう」と言ったら。

いや、と口ごもり。


「……明日結婚記念日だから、どっか行きたいかなって」

「っ」


ああもうそんな時期か、という驚きと、自分の誕生日でさえよく忘れる彼が記念日を覚えていた驚きと、明らかに疲れているのに珍しく出かけようとするくらい気を使ってくれた驚きと、じわりと滲んだ感慨に、思わず瞬きをした。


「覚えてたんだ。ごめんわたし忘れてた」

「珍しいな。覚えやすくしようってクリスマスにしたのに」


ひどいわたしの返答に怒らない彼に、ああ、と思った。


「せっかくだから出かける? ほんとに家でもいいよ」

「出かける。でも今日は遅くまで起きててもらったから、明日はゆっくり起きよう」


随分前、記念に買った壁掛けの時計を見遣る眼差しに。


「とりあえず飯食おう。待たせてごめん」


着替えもそこそこに、先にわたしのぶんのお皿を温めようとする手元に。


ああ。

ああ。


「ねえ、なんで明日が結婚記念日だって覚えてたの?」

「いや、だから、クリスマスだからだって。……つーか、忘れるわけないだろ」


ああ。


わたしやっぱり、あなたとしあわせになりたい。
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