ふ、のつくしあわせ
ありがとう、と泣き笑いしたわたしの名前を、えっ、なにどうした、と慌てたように彼が呼んだ。


久しぶりの名前はそれだけで甘やかで、もういいや、と思った。このひとがすきだ、とおもった。


わたしにしかわからない理由でいい。あなたにしかわからない理由でいい。

小さく薄く積もる好きが目減りしたって構わない。


わたしはきっと、これからもあなたを好きでいられるだろう。

何度も目減りと確信を繰り返しながら、きっと。


そうして、それが傍から見るとどんなに不幸せに見えたとしても、きっと、きっとわたしには幸せに思えるだろう。


……わたし、わたし、あなたとしあわせになりたい。

ふのつくしあわせでも、ふのつかないしあわせでもなんでもいいから、あなたとしあわせになりたい。



好きだよと、久しぶりに言った。好きだよと、久しぶりに言われた。


いつものように、しんと薄暗く冷えた夜だった。



Fin.
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