そして、君に恋をした
そうだ、これは太宰さんの字だ……。
万年筆を握る太宰さんの姿が目に浮かぶ。
太宰さんが書いた紙を読んだ。
・彼女は天使のように美しい。
・彼女の名前は小林 令奈。
・彼女は耳が聞こえない、だから近づく時は驚かせてはいけない。
・彼女の為に手話の勉強をしっかりとしておこう。
・彼女が困っていたら、然り気無く助けてあげよう。
・彼女が泣いていたら、そっとティッシュを差し出してあげてほしい。
・彼女が落ち込んでいたら、何も言わず抱き締めてあげてほしい。
・彼女が辛そうな顔をしているのを見つけたら、先回りをして必ず玉川に行くこと。
・彼女の笑顔がこの先絶えないように、一生笑わせてあげてほしい。
私のことばかり、書いていてある。
……太宰さん。
言葉が止まった。
──思い返すと、
そう、だから……、西川くんは何かしらあると私のことをずっと助けてくれて、
いつも、守ってくれていたんだ。
『俺は小林をずっと笑わせる自信があるよ』
そんな風に話すところ、
『あなたはひいひいじいちゃんに本当にそっくりね』
本当に太宰さんにそっくりだった。
太宰さんの面影がどこかある西川くん。
『たまーに、言われるんだよ!』
『やっぱり』
オレンジ色の夕焼け空の下、家に帰る方の道に私は体の向きを変えた。
西川くんが私の顔を見た。
『二人で歩こう、明るい未来のある道の方へ』
『うん』
私は西川くんの手を握った。
そんな、私は……、
──そして、君に恋をした。
私はこの温かい手をずっーと離さない。
(完)