そして、君に恋をした


私はいつも学生手帳を胸ポケットに入れて持ち歩いている。




きっと玉川であの時に落としてしまったんだと思った。




その青年は私の顔をじっと見て、まだ何か言いたげな顔をしている。



私の側から、まだ離れない。




生まれつき聴覚障害がある私は母親に良く言われていたことがある。




絶対に知らない人についていかないこと。




絶対に知らない人に話しかけられても、相手をしないこと。




母親の約束事はまだまだある……。




私の後ろにいる人は、まさに私の知らない人なのだ。




玉川で出会ったばかりの青年、




……だなんて、言えない。


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