そして、君に恋をした

午後六時。


夕飯の支度の時、私は太宰さんと二人で準備をした。



私と太宰さんの間を筆談用のノートが行ったり来たりする。



背が高く体格の良い太宰にとって、今晩の夕飯は少し品数が少なくないか気になった。



【夕飯のおかず、ちょっと少なくないですか?】



【いえ、これで十分です】



行儀良く箸を揃えて静かに食べる太宰さん。



特に鰈の煮付けを気に入って食べているようだった。



【しっかりと味がついているのに、鰈の身はふんわりと白く、やわらかい。最高です。お母さんは料理が上手ですね】



【そんなに、美味しいですか?】



【はい、美味しいです】



太宰さんは魚の身を綺麗に取る。



魚の骨だけが綺麗に形を残している。




私のは、原型がわからない……。


もう、ぐちゃぐちゃだ。


いつも、魚の骨を上手く綺麗に取ることができない。



太宰さんの体が小刻みに小さく揺れたのを見た。



太宰さんが私のと見比べてクスクスと笑ったのがわかった。



初めて太宰さんの笑った顔を見た。

< 68 / 110 >

この作品をシェア

pagetop