そして、君に恋をした

今度は、私が万年筆を握った。



【私はどこにいても、孤独です。この家にいてもね……】



【どうして?】



太宰さんは筆談用のノートから視線を離して、私の顔を見た。



【どうして……】



【はい、そうです】



【私の世界には音がない。生まれた時から……】



私は筆談用のノートにずっと書き続けた。




私の世界には音がない。




音について、周りからいくら詳しく説明をされてもわからない。



想像をするのにしても、音を聞いた事がないから分からない。



聴覚以外の感覚を頼りに生きている。



風が吹く音も、鳥の鳴き声も、人の声も聞こえない。



夜空に花火が弾ける音もまだ聞いた事がない……。



でも、私にはこの目がある。



どんな風に木の葉が揺れ、肌にあたる風の感覚で風の強弱がわかる。



鳥のくちばしを見てどんな風にだいたい鳴いているのかを想像する。



人の口の動きを見れば、何を話しているのかが私にはすぐにわかる。




──音が聞いてみたい。



何も聞こえないこの耳のせいで、私はずっといじめにあっている。




この両耳が嫌い。




両親のまえでは明るく振る舞っている。



私は明るい子。



私の両親は私のことを色んな人にこう話をする。




この子は耳が聞こえないことを全然苦に思っていないし、いつも明るいんだと。




私はそうしていないといけないんだと思った。

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