そして、君に恋をした
午後十二時半。
私の家。
やっと、到着。
窮屈な黒い革靴を脱ぎ捨てるようにして、揃えもせずに玄関から上がった。
気持ちを沈めようとしても
むしゃくしゃする気持ちがおさまらなくて、
冷蔵庫の扉を勢い良くバーンと開けて、コーラを一気飲みした。
空になったペットボトルをぶらぶらと振り回しながら歩いていると。
急に後ろから肩をトントンと二回叩かれて、びくついた。
振り向くと同時に炭酸飲料を飲んだせいで、思わずゲッフーとげっぷが出てしまった。
きょとんとした顔の太宰さんが立っていた。
げっぷ、
出すつもりじゃなかった。
つっ、つい……。
口元に両手をあてて塞いだが遅かった。
喉の辺りをジェットコースターが通り抜けるように炭酸の空気が口から出た感覚はわかるけれど。
ゲップの音が聞こえない、私には聞こえない。
私にはわからない。
げっぷの音って、そもそもどんな音。
太宰さんにそのことを聞くと。
筆談用のノートにすらすらと詳しく書いてくれた。
【まるで、火山が噴火をするみたいな感じの音だったよ】
【……大袈裟な】
【いやいや、本当だよ!】
太宰さんが眉毛を下げて笑っていた。
お腹を抱えて私もつられて笑ってしまった。
笑うのを止めようとしても、しばらく止められなかった。
なんだかこの時、不思議と消しゴムがガムに変わった事ぐらい大したことないやと思えた。
笑いすぎてお腹が筋肉痛になった。