あたしが髪を切ったわけ
なぜ髪を切ったかって言うと
 髪を切った。

 ばっさり切った。

 腰に届きそうなくらいまで伸びていた髪を肩の上まで、うなじが見えるぐらいまで、ばっさり切った。

 特に何があったわけでもなく、ただ何となく、うっとうしくなって切ったのだけど、皆はなかなか信じてくれない。

 と言うより、それを話題にして楽しんでいるようだ。

 ほんとのことなんか、どうでもいいってわけだ。別にあたしも構わないけどね。

 何年かぶりに軽くなったあたしの頭は、妙に清々しくて気持ちいい。

 あ、別に中身のことじゃないぞ!髪の毛ってぇのは結構重たいのだ。

 でも、ちょっと寒いな、切る時期を間違えたか?

 夏の初め頃にすればよかった。秋も終わって、もう冬だもの。

 寒いわけだ。

 そうか、もう冬なんだ。早いなぁ。

 長い髪に未練がないかってぇと、まるっきりウソになるけれど……

 まぁね、言わせてもらっちゃあなんだけど、あたしの髪って、黒くて、艶やかで、とてもしなやか。

 癖のないその長い髪は自分でも気にいってて、あたしの自慢の一つなのだ、いや、だった。

 けれど、結構手入れがめんどくさい。

 お風呂に入るときなんてもう大変!

 髪を上げとくのも面倒だし、髪を洗うなんて重労働だ。

 重いし苦しいし肩が凝る。

 乾かすにも時間かかるし、ドライヤーでがんがんやればいいのだけど、やっぱ痛むもんね。

 あたしゃ綺麗な黒髪が好きだ。

 まあね、慣れてはいたけど、髪切った今から思うと良く自分があんな事していたなと思うよ、うん。

 いやぁ、おかげで肩凝りが取れて、元気、元気。

 ちょっと、寝癖がごまかせなくなったけど、そんなのは愛嬌だ。すぐ直るもの。あたしの髪はこしがつおいのだ。

 でも、確かにたいした理由もなく切ったのだけれど、そうなのだけれど、ほんとにないのかというと……

 そう、なのかな……?
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