あたしが髪を切ったわけ
 あたしはこのとき、本能的に奴の本質を見切っていたのだ。

 うーん、喜んでいいのか?ま、いいか。

 思えば、このとき断っていなかったら、奴との縁も単に『失礼な奴』で終わっていたのではなかろうか。

 それにしてもよく喋る奴だった。

 一見おとなしそうに見えるのは、はったりだ。

 よく見ると、好奇心旺盛な目をきょろきょろさせ、ずけずけとものを言う。

 言うことがいちいち鋭い、というか、批判的というか、どうも相手の痛いところを突き、良いところを悪く言う傾向があるようだ。

 敵が多そう。

 断ると奴は少し首を傾げ、一転してちょっと悲しそうな顔であたしを見詰めた。

 うわっ、そんな顔で見詰めるんじゃない。

 なんか、すごく、あたしが悪そう。

 胸を締め付けるような罪悪感が、じわりと心の中に侵入してくる。

 ううっ、あたしが悪いんじゃ……
< 12 / 89 >

この作品をシェア

pagetop