あたしが髪を切ったわけ
 へぇ、こういう目もできるのか。

 デイバッグから出したらしい24色入りのパステルの箱が2つ、蓋を開けて脇の椅子に乗っている。

 ほう、結構使ってるな。赤系や黄色系がずいぶん減ってる。

 数度目で、あたしと視線を合わせ、にこりと笑う。

 いったい何を描いているのだろう。

「あ、いいよ、絵、描いてて、ぼくもなんだか描きたくなっちゃってさ、君に付き合うよ、閉門までまだ少しあるし……」

「でも、快気祝いじゃないんですか?主賓が来なくて待ってますよ、きっと」

 ったく、このまま居すわられてたまるか。

 これじゃ気が散ってしょーがない、せっかくのってるのに。

「ん?ああ、大丈夫。あいつら単に騒ぎたいだけだから、ぼくの快気祝いなんて口実にすぎないよ。今頃楽しくやってるんじゃない?」

 そんなもんかと思いながら、その日は仕方なくもう少し筆を進め、閉門ぎりぎりで片付けて下校した。

 奴は、あたしがキャンバスに向かっている最中、しきりにこちらを見ては、パステルをスケッチブックの紙面に乗せていた。
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