あたしが髪を切ったわけ
 あたしを描いているのか?

 う〜ん、人を描いたことは何回かあるけど、人に描かれるのは初めてだった。

 確かそうだと思う。記憶に無い。

 もしかしたらあるかもしれないけれど、こう面と向かって描いてるぞっていうのはないはず。

 何気なくキャンバスに向かいながら、内心緊張しまくってしまった。あたしにだって乙女の恥じらいってぇのがあるのよ。

 いやん。

 ・・・赤面、自己嫌悪。

 しかし、奴の絵はそのとき見ることができなかった。

 だから、ほんとはなに描いてるのかなんて、わかんなかった。

 美術室を出るとき、まだスケッチブックを開いたままの奴に一応敬語で「閉門しますよ」って言っておいたが、奴はただ左手を軽く挙げて、了解の意を示しただけだった。

 ふんとにもう。

 ま、いいか、他人のことだもの、準備室にはまだ顧問の小田先生がいることだし、あたしは帰った。

 これが奴との初めての邂逅だった。

 えっ?言いすぎ?
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