あたしが髪を切ったわけ
 なにをむきになってるんだ?あたしゃ。

 あんな話を聞いたばかりで、なんか、気恥ずかしく、落ち着かない。

 あたしともあろう者が、なにを純情ぶってんだか!がんばるのだ、三矢。

 そうだ、絵のことを考えるんだ。

 絵のこと、今度描く絵のこと、絵、絵、えっ?だれか呼んでる。

「伊良沢さん、あの絵仕上がったんだ」

 奴があたしの顔を除き込むようにして言った。いちおう、うなずく。

 なんでこいつ声変わりしてないんだ?いや、してこの声なのか?高くさらさらと聞きやすい声。

「へぇ、ねぇねぇ、まだあるの?あの変な絵」言うことはいちいち頭に来る。

「ありますけど、その、変な絵っていうのやめてくれません」

「変な絵?でも変な絵じゃないか。まあいいや、で、あるなら見せくれる?」

 別にいいけど、部員の作品が立て掛けある棚にあるから勝手に見ればいいのに、変なとこに礼儀正しい奴だな。一言多いけど。

 あの絵は完全に絵の具が乾くであろう来週あたり家に持って帰る予定なのだ。
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