あたしが髪を切ったわけ
 人の作品を持ってるっていうのに無造作だ。まだ乾いてないんだからもっと丁寧に扱ってよね!何かあったら、ちょっと怖いぞ。

 作品を空いてるイーゼルに乗せ、イーゼルを動かして光の当たりを調節する。

 数歩下がってしげしげと見る。絵は下がって見るものだ。そうしないと絵の全体感を掴めない。

 池森先輩、エッちゃん、トモも奴の後ろに回って、どれどれと言って加わった。あたしもだ。

 これだけまじまじと見られるとちょっと恥ずかしい。

 自分の作品というのは、まぁ、その人の思い入れによるけれど、自分の頭の中をさらけ出しているわけで、なんか素っ裸の自分を見られているようで恥ずかしいものなのだ、これが。

 作品というのは、自分の生んだ自分の分身で、自分の子供と同時に自分自身なのだ。

 絵の構図は前に言った通りだけど、あの頃と変わったのは、画面中央の水球の少年が羊水の中で眠る胎児のように身を丸めていたのが、手足を伸ばし、水底へゆっくりと落ちていくイメージとなったところだ。足先はそのまま水球から海中へと溶け込んでいる。
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