あたしが髪を切ったわけ
「ないしょ」
「ねぇ、今度の日曜日、あいてる?」

 奴がそう言ってきたのは、卒業式も試験も終わった3月の中頃だった。

 うーん、あと1ヶ月であたしも17か、あんまり実感わかないなぁって感じ。あたしは4月生れなの。

 あたしは、親に援助してもらって買ったF50のばかでかいキャンバスに向かって、ぼーっとしていた。

 結局明確なイメージが決まらず、ただ、今までで一番大きな絵が描きたいという理由で、キャンバスを買ってきたのだけど、いざ白い巨大な画面の前に立つと、あたしの頭も真っ白になってしまったのである。

 なさけない。

 まあね、それまで一番大きかったのがF20だったからねぇ。倍以上の大きさ。巨大に見えるわけだな。なにしろ、下手な扉一枚くらいはあるからねぇ。

「えっ?」

 そんなわけで上の空だったあたしは、あたしの左で、いつのまにか、いつものスケッチブックを広げて何やら描いていた奴の方を向いて聞き返す。

 今日は鉛筆で描いてる。

 そういえば、奴の絵って見たことないな。文化祭の展示にも出してなかったし、いつもスケッチブックになにか描いてるだけだし・・・。
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