あたしが髪を切ったわけ
 そこに知った顔がいた。いや、背中だ。ちょうどあたしに背を向けた位置。

 池森先輩だった。エッちゃんはどうしたんだろう。

 あたしたちみたいに、はぐれてしまったんだろうか。

 先輩は、左足を上にして足を組み、じっと前を右から左へと過ぎていく人の流れと、その向こうに飾られた1枚の作品を眺めているようだった。

 少し前屈みになって、左手を顎に当てている。もしかして眠ってるのかな。

「先輩、池森先輩、こんなところにいらしたんですか?」

 あたしは、椅子を回り込んで、先輩の側に寄って声をかけた。

「ん?ああ、伊良沢さん、あれ?ぶちょーは、どうしたの」

 池森先輩は、軽くあたしを見上げて応えてくれた。

 ふーむ、この人は何やっても絵になるねぇ。まるでモデルみたいだ。

 今度デッサン会やるときモデルになってもらおうかな。

「さぁ、ちょっとはぐれてしまって・・・エッちゃんはどうしたんですか?」
< 38 / 89 >

この作品をシェア

pagetop