あたしが髪を切ったわけ
 そのとき描いていたF15の絵は、すでにざっと色が乗っていて、これからが本番、といったところだった。

 キャンバスを色で一通り埋めてからが長いのだ。

 一筆一筆にイメージが変化していき、どんどん画面と頭のイメージが互いに歩み寄り、一つの作品へと進化していく。

 この過程がたまらなくて絵を描いているようなものだ。

 あああ、快感っ!

 描いている絵は、いわゆるイメージ画で、抽象画というよりは具象画だ。

 物を見て描く絵ではなく、頭に浮かんだ具体的なイメージをキャンバスに写しとっていく絵だ。

 別にジャンルにこだわってるわけじゃないけど、束縛される絵より自由に描ける絵のほうが好きだから描いている。

 その絵は、深い海の底に浮かぶ水の球に眠る少年のイメージ。

 色はブライトレッドを中心に、カーマイン、オーロラピンク、カドミウムレッドパープルとチタニウムホワイトで中心となる水球と少年を、ビリジアンをベースにその周辺を埋めている。

 赤と緑の対比はあたしの好きな組み合わせ。
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