あたしが髪を切ったわけ
「俺にとって、あいつは弟みたいなもんでさ、どんなときでも大概一緒に過ごして来たから、知りたくもない事まで知ってるけど、あいつはいい奴だよ。まぁ、口は悪いけどね」

 それはよく知ってる。

「でも、あいつが口悪く言うのは親しい奴だけなんだぜ。変なとこがあってね、親しくなればなるほど口が悪くなるんだ。特に女の子に対してね」

 変な奴だ。

「多分恥ずかしいんだと思う。恥ずかしさが裏目に出るんだろうな。だから、君があいつのことをどう思っているかは判らないけど、嫌わないでやって欲しいんだ。今日来たのも、あいつの事が心配になってね、いきなり君と2人きりじゃ、殺伐としたデートになりかねないからね、あいつの場合」

 確かにそれはあり得る。

「そんじゃ、そういう訳だから、あいつの事、よろしくたのむわ」

「は、はい」

 げっ、ついつられて返事しちゃった。

 先輩は、そんなあたしを見て、にやりと笑って立上がり、次の展示室へ行ってしまった。

 言ってて本人も恥ずかしくなったのだろうか。

 ちょ、ちょっと、なんなのよ。奴のことばっかり気にかけてたけど。

 そんじゃ、あたしの気持ちはどーなってんのよ。

 よーするに、とにかくあいつはいい奴だから好きになってくれって言ってんのよね。
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