あたしが髪を切ったわけ
 ふと顔を上げる。さっきの池森先輩とおんなじだ。

 歴史は繰り返す?

 エッちゃんだった。

「あ、エッちゃん、池森先輩なら、今さっきあっち行ったよ」

 指差して教えてあげる。

「え、あ、そう?ありがと・・・じゃなくて、あんた、部長ほったらかしてこんなとこでなにやってんのよ。あんたのその、自分の中に入り込むとまるっきり周りのこと気にしなくなる性格なおさないと、あの時みたいに愛想尽かされるわよ、せっかくいいのが引っ掛かってきたっていうのに」

 む、なんだこの剣幕は。まだ気が立ってんのかな?

 それにしても、頭たたかないでよね。

 だいたいあんただって池森先輩ほったらかしてんじゃないの?

「なによ、その『あの時』ってのは」

「ほんっとにああいうことはすぐ忘れたつもりになれるのよね」なによ、その忘れたつもりってのは。

「柿崎君のことよ。去年の5月」

 お、思い出した。あ、あれか。た、たしかにあれはいま考えるとまずかった。
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