あたしが髪を切ったわけ
 視線をそらせない。

 そして、なんとなくせつなくなって。

 そっと、あたしは奴の唇に触れるようなキスをした。

 離れたときの奴の驚いた顔。あたしも驚いた。

 柔らかい奴の唇の感触が怪しい感覚であたしの唇に残っている。わるくないな。

 奴の顔が驚きから笑みに変わる。明るい天使のような笑み。

 そっとあたしの耳に届くくらいの声で囁く。

「好きだよ。三矢」

 あたしはどうなんだろう。成り行きでキスはしてみたけど、うまく気持ちが言い現せない。

 もう一度してみたらわかるかな。

 2度目のファストキスはゆっくりと奴の唇を食べるように。

 わずかな時間の制止。

 長いように思ったけどほんの一瞬の出来事。

 もう、離さなくちゃ、でも・・・時間よ、止まれ。
< 49 / 89 >

この作品をシェア

pagetop