あたしが髪を切ったわけ
 そんなあたしを見ている奴がいつも側にいた。

「ねぇ、どうかな、この新色」

 横にいる奴に聞いてみた。

「うーん、これよりはセルリアンブルーの方が好きだな」

 ここは、繁華街にある画材屋の中。

 文具専門店で、7階建てのビルの2、3、4階を占めている。

 あたしたちがいるのは、油彩のコーナーがある4階だ。その油彩絵の具の前にいる。

 新しい絵のために絵の具の補充をしに来た、というのはていの良い建て前で、実際は奴とのデートだった。

 しかし、やっぱり画材屋さんに入ると絵を描く人間としての本性が出て、ついついあれこれ見てしまう。

「そーかな、ま、いいや買っちゃえ」

 絵の具に関しては結構衝動買いをしてしまうのよねぇ。

 お金がたまらんわけだ。

 新色のチューブを絵の具籠に放り込む。すでに籠の中にセルリアンブルーとインディゴブルー、チタジンクが入っていた。

 最近多く使っている色ばかりだ。
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