あたしが髪を切ったわけ
 得にお気に入りがチタジンク、名前の通りチタニウムホワイトとジンクホワイトの中間に当たる白で、チタンの鮮烈な白さとジンクの粘りが合わさっていてとても使いやすい。

 白色としてはチタニウムホワイトの方が好きなんだけど、あれは腰がないのだ。どちらかと言うと混色や仕上げにちょっとという感じ。

 キャンバスに乗せるとなんだか頼り無い感触で、すぐに他の色と混ざり合ってしまう。色としては強いのに絵の具として弱いのだ。

 そうだな、病弱な美少年ってところか?まるで奴みたいだ。

 ま、それでもう少し粘りのあるチタジンクを使っているわけ。

 こいつもせめてチタジンクぐらい身体が丈夫ならいいのにねぇ。

「ねぇ、三矢、この色いい色だよ」

 そう言って、奴は、一本の絵の具を取り出してあたしに見せた。

 一目見て、そりゃあいい色だろうと思った。あたしが好きな色の一つなのだが。
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