あたしが髪を切ったわけ
「ヴァーミリオンでしょ。好きなんだけどねぇ、高いのよ、それ」

「へぇ、油彩はやんないから良くわかんないけど、そうなんだ」

「そうなの。だからいつもこっち使ってんの」

 棚から一見似た色を取り出して奴に見せる。これはヴァーミリオン・チント。

 この二つ、実際、四倍以上値段が違う。

 同じような朱色なのに、比べるとやっぱりヴァーミリオンのほうがいい。

 いつかは使ってやると昔から誓っている色なのだ。

 しかし、貧乏なあたしはいまだに使ったことがない。ぐすん、悲しい。

 ついでに買っとこ、もちろん、チントのほうだ。

 絵の具はこんなものかな。そうだ、ブルーコンポーゼとブライトレッド、そうそう、セピアも・・・う、予算オーバーしそう、一番少ないセピアだけにしとこ。

「そっちは何か買わないの?」

 とりあえず買う色が決まったので、さっきから見ているだけの奴に聞いてみた。
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