あたしが髪を切ったわけ
 広く大きい波形の桟橋は、全体がウッドデッキになっていて、なかなか圧倒される。

 奥には芝生も有り、ちょっとした公園だ。

 歩くたびに、木の優しい感触が、脚を伝わってくる。

 スロープを上ると、外側の手摺ぞいに先端へ向かった。

 さすがに街中より風が強い。

 耳の横をごうごうと音をかき鳴らして過ぎていく。

 正面からの風なので、髪が後ろへ大きくたなびく。

 今日は白いカチューシャで前髪を押さえてるだけの簡単な髪形。ま、いつもと変わんないってことだな。

 服装はジーンズなのでスカートみたいに風を気にする必要がない。上はTシャツの上に目の荒いざっくりとした白いセーター。春物といよりサマーセーターだな、こいつは。

 何組かのカップルがしているように、桟橋先端の手摺に2人して腕を乗せて港を眺める。

 こうしていると美術館を見に行ったときのことを思い出すな。

 この場所はあのときより港の内側になるので、また違った港の様子がみれる。

 港のどこにいってもこれだけは変わらない、潮をたっぷり含んだ風が、2人を包んでいく。
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