あたしが髪を切ったわけ
 こいつをモデルにすればいいんだ。

 ほんとは、ずっとそれを望んでいたのだけれど、頭のどこかでそれを思い止どまらせる声があったのも確かだ。

 理由はわかっているような、いないような。

 でも今、奴の横顔を見ていて、それが吹っ切れた・・・というか、無視することに成功した。

 よし、決めた。決めたら即実行があたしのモットー。

「ねぇ、そう、不貞腐れないでよ」

 無視。

「ねぇねぇ」

 また無視。ほんとに怒ってるのかな?

 男ってくだらないことで怒るのね。

 変なの。

 でも、諦めないわよ。もう、決めたんだから。

 男(こいつ)も勝手だけど女(あたし)も勝手だよね、くすっ。

「おーい、こっちむけ、食べちゃうぞ」

 そう奴の耳元で囁いて、こちらを向いてる奴の左頬をぺろりと嘗めてやった。
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