あたしが髪を切ったわけ
 ちょっとしょっぱい。潮風の味だ。

 さすがにびっくりしたのか、こっち向いた。

「なんだよ」

「あのさ」

 さて、いつにしようかな。

 今日、これから?もう遅いしな。できれば他の部員がいないときがいいんだけど。

 なら、ちょっと間が開くけど・・・

「来週の日曜空いてる?」

「えっ?えーと、なにもないけど・・・」

「じゃあさ、学校に来てくれない?ちょっとモデルやって欲しいんだ、いま描いてる絵の」

「別にいいけど・・・」

「よし、じゃあ、決まった。来週の日曜午後1時に美術室で。わかった?」

「うん」

「ありがと」

 そのまま素早くキス。

 この二ヶ月で、強く頼めば断れないというこいつの性格はしっかり掴んだのだ。

 キスは、まあ、お礼の前払いみたいなもんだ。それと気分直し。あたしも勢いに乗ると大胆だね。

「じゃ、いこう」

「う、うん」

 奴を促して、桟橋をあとにした。

 そして、その日はそのまま家路についた。

 奴は、最後まで、納得したようなしなかったような複雑な顔をしていた。
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