あたしが髪を切ったわけ
「ねぇ、触ってもいい?」
 次の週は、水曜と土曜にちょこっと美術室に顔を出しただけで、家に帰った。

 どっちも初めて油彩をするっていう新入生にアドバイスをしてやっただけで、自分の絵には手をつけなかった。

 そして、日曜日、前日まで降っていた雨が朝までに止んで、昼頃には気持ちのいい天気になっていた。

 学校へ通じる階段の両脇に繁る草木も、瑞々しさに溢れて濃い緑の匂いを放っていた。こういう元気一杯の季節って大好き。

 身体をおもいっきり動かしたくてうずうずしてくる。

 こういうときって、創作意欲も沸いてくるんだよね。

 とにかくなにかしたくてたまらなくなってくる。

 軽い汗をかいて階段を上り切ると、下駄箱で靴を履き替えて、美術室へ向かった。

 年期の入った校舎の中は少し暗くてひんやりしていた。

 どこか遠くで生徒の話し声が響いてくるだけで静かだ。

 休日の部活は顧問がいなくちゃ出来ないのだが、美術部は個人が勝手にやってる場合が多い。

 まぁ、そんな物好きはあんまりいないけど。
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