あたしが髪を切ったわけ
 美術室の鍵はいつも開いているが、準備室の鍵は顧問がいないと締まっている。

 でも、合鍵が部員の間に出回っているので出入り自由に近い。

 これは部内の公然の秘密になっている。

 まあ、うちの部はのん気な気質なので顧問のほうも悪さはしないだろうと黙認しているようだ。

 だいたいが自分の作品しか興味ない連中の集まりだからね。

 ほんと、のん気だよな。

 美術室の扉をがらりと開けると、奴が先に来ていた。机に座ってコンビニのおにぎりをウーロン茶で食べている。

 あたしは、家を出る前にお昼は食べてきた。

「あれ、ずいぶん早かったね」

 そう言いながら美術室の時計を見る。

 1時10分前、別にあたしが遅れたわけじゃないな。
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