あたしが髪を切ったわけ
「モデルを待たせちゃだめじゃない」

「ナマ言ってんじゃないの。男はね、女を待ってるのぐらいが丁度いいのよ」

「なんだよ、それ。せっかく来てやったんだぜ」

「ぐだぐだ言ってないで早く食べちゃいなさいよ。約束通り1時から始めるからね」

「はいはい」

「返事は1回」

「はーい」

 親子の会話じゃないんだけどな。ま、いっか。

 とりあえずあたしは、散らばっている机と椅子をてきとーに脇へ寄せて、いつものあたしの定位置の前にスペースを開けて、支度を始めた。

 部屋の隅に、イーゼルに乗せ布を掛けて置いてあるF50のキャンバスを引っ張り出して、位置を決める。

 直射日光が強いので、校庭側の窓の白いカーテンを閉める。

 その頃には奴も食べ終わって、手伝ってくれた。

 道具箱をイーゼルの脇に広げて、準備は完了した。

 さてと、次はモデルのほうだな。

「で、どうすればいい?」

「んーと、その辺に立ってこっち向いてくれる」

 全身像はいらないからな。

「一歩手前に来て」

「こう?」

 目測で2メートルくらいかな?

「そう、そこでいいわ」

 さてと、ここからが肝心。でなきゃ人のいない日曜日に呼ばないわよ。
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