あたしが髪を切ったわけ
 恐る恐る右手の指先で触れる。

 右の胸からゆっくりと下へ。

 女性のそれとは違う堅い筋肉の感触。

 うっすら汗をかいているせいで少し肌が指先に吸い付く。

 そのまま縫合跡の上をなぞる。

 そこだけ肉が盛り上がっていて薄い皮の感触。

 縫合跡を下までそっとなぞり終える頃には、あたしもうっすら汗をかいていた。

 ふと手をそのままに奴の顔へ視線を戻す。互いの息遣いが肌で感じられる距離でじっと見詰め合う。

 奴とあたしの汗の匂いが交じり合って鼻孔を軽く刺激する。

 なんだろう。あのキスのときよりも強い衝動がどんどん高まっていく。

 自分でも目が潤んでくるのがわかる。

 次に互いがなにを求めているのかが本能的にわかっている。

 限界が近い。

 だめ!これ以上は!
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