あたしが髪を切ったわけ
 でも、まあ、一緒にいるとなんか落ち着くし、なんていうのかな、そう、安心感とでもいうのか、一体感というか、幸せな気分とでも言うのか、そんな感じがする。

 これが人を好きになるっていう感覚なのかな。

 まだ、わからない、自分の気持ちが・・・

 よく、好きな人の姿が頭から離れなくなると言うけれど、あたしの場合は、描いてる絵の少年が、頭の中にあるイメージとしての少年像のつもりが、いつのまにか奴の肖像にすり変わっているときがある。

 確かに、イメージの発端は奴だし、奴があたしの持つ少年像に似ているのも確かだけど、あたしの頭ん中で構成された少年像を描くのと実際に目の前にいる奴の姿を描くのとはぜんぜん意味が違う。

 たしかに、実際奴をモデルにしたけれど、それは明確なイメージの参考にしたにすぎない。

 イメージの全体像を掴むきっかけに使っただけなのだ。

 あたしは奴の肖像を描いてるんじゃなく、とても不安定で曖昧なあたしのイメージを具象化して描いているのだ。

 描いているのは、あたしの外にあるものじゃない。中にあるものだ。

 それなのに・・・

 絵を描く者としての追究と、奴の存在を拒まないあたしの奴に対する思いが攻めぎ合い、絵は、7月に入って中途半端な状態のまま止まってしまった。

 そんな頃だ、あれが起きたのは。
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