あたしが髪を切ったわけ
「ちょっと痩せたんじゃない?」
 あたしはイライラしていた。

 そろそろその正体を見せ始めた夏の蒸し暑さのせいもあったが、原因は進まない絵だった。

 絵が止まることはあるけれど、こんなにイライラするのは初めてだ。

 油の匂いを嗅いでも、奴の顔を見ても落ち着かない。

 いや、落ち着くし安心できるんだけど、筆を持って絵に向かうと、たちまち気が落ち着かなくなり、イライラし出す。

 なぜ進まないのかは判っている。

 奴の存在だ。

 いつもいてくれて嬉しいのだが、その存在があたしの絵に重く伸し掛かって止めているのだ。

 あたしにとって、絵を描くというのは生活の一部だ。

 切り離して考えられない。

 それと同様に、奴の存在もあたしの心の中の広い範囲を占めている。

 この2つが、なかなかうまくくっついてくれない。

 イライラする。

 暗中模索の状態だ。

 どうしようもない状態のときにそのことを知った。
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