あたしが髪を切ったわけ
「あれ?みんなどうしたの」

 奴の声、いつもと変わらない奴の声だ。

「どうしたのじゃないだろ。倒れたって言うから、心配して来てやったんだぜ、ほら、伊良沢さんも来てんだぞ」

「やあ、三矢。栗原さんにトモちゃんも、あ、てきとーにそのへん座って。うちの母さん、いま家に荷物取りにいってていないから何も出ないけど」

 ずいぶん元気そうだな。

 ほんとに倒れたのか?

 左腕に点滴してるけど、これがなかったらほんとに疑ってるところだ。

 明るい奴の笑顔。

 あれっ、あれっ、なんか急に不安が消えて、目が潤んできた。

 と、止まれ、涙腺。こんなとこで泣いてたまるか。

 あ、止まんないや。やだやだ、どうしよう。

「ミーヤどうしたの?」

 トモの声。あーもう限界。

 あたしは耐え切れなくなってそのまま病室を逃げるようにして出た。

 うう、涙腺のバカ、こんなにあたしが涙脆いなんて初めて知った。
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