あたしが髪を切ったわけ
 奴のことって、あたしはなんにも知らないんだ。

 奴と出会ってから初めての連続だ。

 奴のところへは、ほとんど毎日通った。

 自分でもなぜかはわからない。

 行くと、たいがい奴は1人でいた。

 本を読んでるか、スケッチブックを広げてなにか描いてる。

 奴のとこでやってることって言ってもたいしたことやってない。

 他愛ない世間話や、絵について話したり、互いをスケッチブックに描き合ったりしているだけだ。

 池森先輩や、エッちゃん、トモといった美術部の子たちも、たまに来た。

 顧問の小田先生も一度来たな。あたしがいるんで驚いてたようだけど。

 知らなかったようだ。あたしと奴がくっついてるの。

 ほとんど奴のとこに行ってたから、美術部には全然顔を出していなかった。

 当然、絵も止まったまま、夏休みに入った。

 さすがに夏休みに入るとなかなか行けなくなった。

 学校から病院はバス1本で近いんだけど、家から病院はえらく遠い。

 交通費を考えるとね、限界っつうものがあるし、あたしにもあたしの生活がある。
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