あたしが髪を切ったわけ
 徹夜明けの頭をコーヒーで無理やりはっきりさせ、着替えて家を出る。

 家を出て気が付くと、病院に着いていた。

 記憶がない。

 先輩は、まだ来ていないみたい。

 なんだろう。

 なにかが頭の回りに張り巡らされていて、現実とあたしを薄く切り離している。

 身体が勝手に受け付けを通り、エレベータで4階のボタンを押す。

 気が付くと、奴の病室の前に立っていた。

 病室の前には、会ったことのある奴の家族の人達がいた。

 年配で、背の高く美人の女の人が何かあたしに言ってる。涙目だ。

 あたしも何か答えてる。

 ああ、この人は奴のお母さんだ。

 奴にそっくりな顔立ち。そうか、奴にじゃなくて、奴が似てるんだな。

 そう思ったとき、奴の顔が重なった。

 その後の行動は衝動だといっていい。

 そのときのあたしは、どうかしてたのだ。

 でも、それで良かったという気もする。

 今では・・・いや、今でも。

 急に頭が熱くなり、頭の回りにあった何かが消えて、クリアになる。
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