あたしが髪を切ったわけ
 奴はひょこひょこ入って来て、あたしの左手から回り込んで、横までやって来た。

 あたしはそれを何となく目で追い続けた。

 何かやたらと視線を気にしていて、堅い顔、歩き方もぎこちない。

 右肩に青いデイバッグを掛けていて、左手に黄色い表紙のスケッチブックを抱えている。大きさはF10くらい。

 そして、あたしのキャンバスを覗き込んで一言。

「ふーん、変な絵」

 な、なんだこの失礼な奴は!

 それが奴との初めての出会いだったのだ。
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